ショートストーリー 「夜空に赤々な星」 本文(12)

祇園のパチンコ「Gion 1・1」にやって来た。

今日は土曜日。客足は多い。
入ってすぐのところに「大爆発」の札が立つ箱が山積みになっているのが
目に付いた。箱の中には輝くパチンコ玉がぎっしり詰まっている。
玉を弾く音、玉が撥ねる音、元気なBGM、ありとあらゆる音が瑞希の耳を
埋め尽くす。
山積みの箱を指差しながら、隣のおいといておじさんに
「すげぇ〜、こんなに出したらいくらくらいになるのぉ?」と大声で訊く。
おいといておじさんも大声で答える。
「はいぃ、やったことがなかですからぜんぜん分からんとですぅ。」
「入り口あたりで勝っとぉ人は、さくらやち聞いたごたるですぅ。」
「どうすれば負けんと? 勝つにはどげんすっと?」
「わしには分からんとですぅ」
大声だが力の無い答えが返ってきた。


「しょんなかねぇ、おじさん」
瑞希はおいといておじさんをそこに置いといて、勝っている人の中でも優しげ
なおじさんを探し始めた。
人一倍出しているおっちゃんが手を休めた瞬間を見逃さず、瑞希は突撃インタ
ビューした。
「あたし初めてなんですけどぉ、どげんすれば勝つっとですかぁ?」


見てくれもそこそこに良い若い女に話し掛けられて、気を悪くするおっちゃん
は多くない。
気前良く、大声で教えてくれた。 
が、聞き取れたのは断片的なキーワードだけだった。
海物語、3がカメ、4がサメ、1がタコ、揃えば確定!キュインキュイン!
サムちゃん(サーファー)大好き!、カクヘン(確率変動)などなど。
瑞希にはさっぱり意味不明。
「台の選びかたはぁ?」
「台の上に数字の表示があるだろう。あれを見て選ぶ人がいるみたいなんだが、
あれをいくら見たってわかんねぇんだよ。ただな、自分が千円打って何回転する
かで見極めるっちゅうか、目安にはなるんだよ。回転する方が良いに決まってる
んだよ。千円で20回転すれば良い方だなぁ。」

「うんうん」
瑞希はとうに決めていた。この台でやらせてもらおう!
そう、おっちゃんの台だ。
問題はお金だ。
おいといておじさんの持ち金を合わせてたったの1030円しかない。


「おじさん、千円しかないんだ。だから、この台で千円分だけやらせて下さい。
お願いします!」
おっちゃんは快く許してくれた。


千円で250発。
瑞希は、「勝つ! 勝つ! 勝つ!」と大声で唱えた。
「アハハ」おっちゃんは横に座って吹き出した。
右手をダイヤルに伸ばして、ぐっと右に回した。
1個目の玉が勢い良く打ち込まれ、2〜3回跳ねてあっけなく台に飲み込まれた。

5分後、瑞希の頬には涙の筋が出来ていた。