小鳥の知能と愛情とリレーつばめと

昨夜来の九州北部の豪雨の影響でJR九州のダイヤが乱れ、鹿児島から博多へ
の帰り、新八代駅で足止めを食らってしまった。
その新八代駅のホームで、哀れな小鳥の姿を見つけ、
熊本からリレーつばめがやってくるまでの約40分間、観察を続けた。


新幹線ホームの透明樹脂の窓の桟に1羽の小鳥(雀ほどの大きさ)がいた。
外に向かって懸命に羽ばたくが、そこには透明樹脂があり、外に出ること
は叶わない。
車の中に入ってしまったハエやアブがなかなか外に出られないのと同じだ。
何度もジャンプして羽ばたいては窓の桟に落ちる。何度も、何度も、何度も。


外は大雨。
緑の木立に仲間と思われる鳥の群れが羽根を休めている。
雨のかからない一番良い位置を争っているのか、せわしく位置を変えている。
その中に1羽だけじっと位置を変えずに、こちらに顔を向けているものがいる。
木の一番上の枝。
雨を避けているのではないことは明らかだ。
その視線の先には、透明樹脂越しに、あの哀れな鳥がいるに違いない。
懸命にはばたくものの、自分のところへ飛んで来ない、来れないあの鳥。


一体どういう関係だろう?
親子か? パートナーか?
ずっと、その立つ位置を変えない。


哀れな鳥は、窓の桟の上でふらふらになっている。
ジャンプする高さが小さくなって来た。


ねぇ、君は、進んでダメなら進む向きを変えるっていう、
単純なことが出来ないの?
目的地へまっすぐ飛ぶというのが君等の基本であって、目的地や、
目的の愛するものが見えているのに、そこに飛んで行けないという現実に
対処する知能が無いんだね。
ひょっとしたら、その小さな目は自分の周囲の状況を把握するには適さない
のかも知れないね。


あっ、哀れな鳥くんがレール付近に落ちた。
必死にはばたいて、ふらふらと飛び、ようやく隣の窓の桟に止まった。
もう体力も限界に近い感じだ。


ちょっと待って。
今が気付くチャンスなんだよ。
さっきまで、まったく前に進めなかったでしょ。
でも、いまはふらふらながらも進んだよね。
そう飛べる方向があるんだよ。
飛べる方向に飛んでお行きよ。
そしてこの忌々(イマイマ)しい駅のホームから外に出るんだ。
外に出てしまえば、君のもんさ。
空に羽ばたいて、パートナーの待つ木をすぐに見つけられるはずさ。


木立の鳥はまだそこにいる。
ずーっと待っている。
パートナーが行き先を見失わないように、木の一番高い枝の上に、
大粒の雨を身体に受け続けながら、辛抱強く、ランドマークになっている。


木立の鳥のこの行動を支えているのは、一体なんだろう?
体温が下がっているに違いない。
この行動は生命の危険すら招くかもしれない。
この献身は一体なんだ?
愛情だろうか?
一度契ったパートナーを失いたくない。
そんな愛情だろうか?


何してるの?私の姿が見えるでしょ。ここよここ。早くいらっしゃい。


ちょっと待って。木立の鳥くん。
君がそこに居続けると、哀れな鳥くんは、死んでしまうよ。
君のところへまっすぐ飛んで行きたくて、
君らに見えない透明樹脂に頭をぶつけ続けるよ。
君がそこから居なくなって、透明樹脂の無いホームの入り口に行ってごらん。
哀れな鳥くんは君の動きを見てホームの入り口に必死に行くよ。
きっとね。


「お待たせいたしました。間もなく熊本からのリレーつばめが、ホームに入線
します。」
校内放送が列車の到着を告げ、すぐにリレーつばめがホームに滑り込んで来た。

車内清掃が終わるまで2羽の鳥の様子を見ることが出来ない。
やきもき…


「車内清掃が終了いたしました。お客様はどうぞご乗車になってください。」
リレーつばめに乗り込み、2羽の鳥が見える窓際に座った。
どうしたかな…


哀れな鳥くんは、窓の桟の中央部分にへたりと座り込んでいる。

もはや飛ぶ体力は無さそうだ。
木立の鳥くんは、まだじっとしている。
せわしく動いていた仲間の鳥たちの気配は無い。


視線を哀れな鳥くんに戻した。
じっとしている。
その顔は窓越しの外ではなく、列車の方に向いている。
木立の鳥くんは?と視線を移すと、姿を消していた。
ついさっきまで居たのに…
とうとうあきらめて、仲間の群れに戻ることにしたんだろうか?


発車を報せるベルが鳴り、リレーつばめはホームをするするっと滑り出した。
哀れな鳥くんはどうなるんだろう?
そんな心配に構うことなく、列車は熊本を目指して加速するのだった。


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