脳はフェロモンに敏感!?

脳はまゆみのフェロモンに反応していた。
もし童貞でなかったら、もし金を持っていたら、ホテルに連れ込んだかもしれない。愛も恋も好きも無い。ただ身近に居る女。隙だらけで、「存在がフェロモン」という女だった。会社の妻子ある男社員と寝た女。
こんな女は男をダメにする。頭が空っぽだから、寝た男に全てを依存する。そして男に逃げられる。逃げられなかった男は不幸になる。(ま、中には幸せになる男もいるだろうが。)


トレノの官能的シフトノブの触り方を教えてやった。
まゆみは、「そうなの、ホホッ、そう触るのね。ギュッと掴むんじゃだめなんだ。ホホッ」と顔を緩ませる。大きな目の下の大きな涙溜り、ふくよかな頬、ボリュームのあるバスト、くびれた腰、ミニスカートから伸びた太もも、その全てがフェロモンを放ち、俺の脳はくらくらしていた。股間は充血し、ready! ready!と脳に返していた。


気付かなかったが、まゆみは、運転する俺の身体全体を観察していたようだ。ハンドルやシフトノブを操作する指、腕の筋肉の動き、シャープな横顔、!?


「さっ、ホテルに寄ってこか〜?」
「・・・・・」
「冗談だよ。ハハッ」
「えぇ〜、うそ〜、半分本気でしょ〜ホホッ。行ってもイイヨ、ホホッ」
「ハハッ、冗談さ。ほうら、通り過ぎた。この先、まゆみん家まで、もうホテルは無いし。」
「ふふっ、行っても良かったのにヘヘ」
「・・・」
「よ〜く見ると、かっこいいよね。また、チャンスがあったらね〜」と俺の横顔を見ながら言う。


家まで50m程のところで下した。いつもそうだ。だから家がどこかは知らない。知ろうとも思わない。
ヘッドライトがまゆみの全身を闇に浮かび上がらせた。
その時、脳に浮かぶ冷たい言葉。「もう、送ることは無い。」


帰り道、ショートカットのつもりの田舎道。
ヘッドライトに浮かぶ細いアスファルト、もうすぐ魔のS字だ。少し毛羽立った脳がブレーキを踏ませなかった。S字の上に砂の層があるのに気付いた。
「しまった、すべるぞっ!」
ギヤを一つ落とす。少し遅れて路面をグリップする。2つ目のカーブが目前に迫る。ブレーキペダルを床まで踏む。ハンドルを左へ。タイヤは砂を噛んで路面を滑る。真ん前に標識とその奥に木製の電柱がっ。標識をなぎ倒した瞬間、トレノは向きを左に変え電柱の横をすり抜けた。一瞬記憶が飛んだ。足はブレーキペダルから離れ、トレノはアイドリングのままのろのろと前に進んでいた。どういうわけか、しっかりと田舎道の左車線をキープしていた。


ひぇ〜、やばかったぁ。
やっぱ、まゆみを送るのはこれが最後だ。


標識を倒したことを思い出し、脳が浮かべた弁償の2文字を唾棄して家に急いだ。



と、まぁ、男はかように勝手な生き物でありんす。