小池真理子の「夏の吐息」読了

小池真理子は読みやすい。
それに、心理描写がいい。
気に入った表現をちょっとだけ抜粋して紹介しますね。


年を重ねるごとに、人の気持ちの中には湿った黴のような感情が増幅し、妬みやそねみ、憤り、苛立ちになって悪臭をまきちらす。人々は自分がかかわっている現実にしか目が向かなくなる。苦悩も苛立ちも何もかもが、現実の中でのみ、堂々巡りを繰り返すようになっていく。
  だが、現実の中に横たわる、生臭い悲しみや苦しみの底にすらも一片の無垢があるのかもしれなかった。
  それは時に、雲間から射し込む光を浴びて、弱々しいが透明な輝きを放つ。追いすがっていきたくなるほど、美しい光である。そんな淡い光を肉体の内側に感じていられれば、どれほど救われることだろう。どれほど元気づけられるだろう。


この本は短編集だった。それぞれのエンディングが舌ったらずなものだから、自分でその先を想像する事になる。
「夏の吐息」と「月の光」が良かった。女性の視線は優しいね。時にこういう本で癒やされるのもいいね。