ショートストーリー 「夜空に赤々な星」本文(5)

「こんばんわ〜」
次男めだかの登場。
「あらぁ、おいといておじさんやないですかぁ」
「元気してましたぁ?」
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あぁ、めだかさんだ。
このひと、賑やかなんだよなぁ。
でも口悪いから、変なこと言って墓穴掘りたくない。
すぐ突っ込んでくるから。
でもこの人とも仲良くしたい。
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「やぁやぁ、めだかちゃん、今日も会ったネェ。」
「毎日来まっせ」
「もうすぐ三男も来る言うてましたで。ジム行って、いったん家帰って、
それから来ましたんや」
「今日はジムでええ汗かきました。悟空さんも行ったらええのに」
「いやいや、俺ってやることいっぱいあるからジムに行く暇がないんよ」
「暇とはなんですか。暇とは。」
「あぁ、めんごめんご、時間よ時間。」
「ところで、今日はおいといておじさんがちょっと暗いんよ。」
「友達が死んでるのをおいといておじさんがめっけたんだって。」
「え、えぇ〜、そりゃ大変や」
「はいぃ」
「そうなんよ、今日暗いんよ」と大将。
「まぁまぁ、飲め飲めぇ」
「今日は錦ちゃんファミリー弔い酒や」
「ささ、おいといておじさん飲みましょ」
「はいぃ、みなさんのおかげで飲めます。ありがとうございます」


おいといておじさんが飲み始めて、すぐに三男がやって来た。
腰が痛いといって、座ろうとしない。焼酎お湯割りを片手に立ったまま飲んでいる。
地質調査の仕事に就いてまだ日の浅い四男が作業服でやって来た。
黒い徳利セーターを作業服の下に着ている。
いつ会ってもこの姿だ。作業服の袖口から覗いているセーターの袖口が思いっ
きり開いている。だいぶ着込んでいるようだ。
三男が、そのことに突っ込みを入れて、
「四男はそのセーター洗濯したことないやろ」
と言う。四男は、
「あ、これ? これは作業服ですから」と返して平然としている。

宮崎から研修で博多にやって来て、飲みの仕上げに屋台ラーメンを食べに来た
老若男女の4人と、錦ちゃんファミリーが意気投合して、盛り上がった。
めだかが4人の一人ひとりにあだ名をつけて笑いが弾ける。
おいといておじさんも明るい輪の中で笑顔を取り戻した。

ふらりと一人で入って来た前歯の無いおじさんに、めだかがストレートに
「歯が無いやん」と言ってしまったために、おじさん憮然として帰って
しまった。
めだかのタメ口は両刃の剣。
仲間内ならまだしも、初対面の人にも構わず特徴をあだ名にして口に出すから、
周りが緊張する。
ゼブラが、「人が気にしてそうなところを論う(アゲツラウ)のは良くないよ〜」
とたしなめるのだが、
大将は、「いいの。いいの。酒飲んで、言いたいこと言ってた方が幸せやん」
などと嘯く(ウソブク)もんだから、めだかは免罪符を手に入れた気分。
悟空も思わず、「めだかちゃん、駄目じゃん。ちゃんと顔色見ながら言わんと」
めだかは、「ちゃんと顔色見てましてん。でもはじめは笑ってはったから
ついつい〜」
「それって、見てないのと同じ(オンナジ)じゃん。」
「すんまへん。以後気ぃ付けますぅ」
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ほんとに分かってんのかなぁ?
わしに「おいといておじさん」っちゅうあだ名を付けたのも、めだかさんだった。

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「住むとこは決まったと?」と大将。
「はいぃ、いま探してましてぇ、あのぉ、西新の方にめぼし付けてます」
「ふぅん、西新と言えば、この間、事件があったね。ほら、あの、老女が通り魔に
刺されたってやつ」
「あぁ、ぇえっと、そっちの方じゃなくてですね、昭和通挟んだ反対側なんです」
「あ、そうですか。それにしても、ここまでは遠いですねぇ。チャリで30分は
掛かるでしょう。」とチャリ好きの悟空。
「家賃はどうするとね?」と大将。
「はいぃ、NPOの人達のお陰で、私も年金を貰うことが出来ることになりまし
てぇ、はい」
「そりゃぁ良かったですね」
「はいぃ、もうすぐホームレス暮らしから足を洗えますぅ。」