ショートストーリー 「夜空に赤々な星」本文(7)

======本文(7)=====
瑞希には妹がいる。
名は沙耶香。
4つ年下。中学1年生。
母親は沙耶香一人に愛情を注いでいると、瑞希は思っている。
優等生でまだ母親の言いつけをよくきいている。
学校の成績も中の上くらいで瑞希より良い。
両親の離婚は9年前。
瑞希が8歳、沙耶香が4歳の頃だった。
原因は父親の夜遊びとそれを許せない母親の狭量さ。
子育てにばかり目が行き、夫のことは二の次。
自分はこれだけ一生懸命子育てしてるんだから、あなたも手伝ってよ!
の一点張り。かなり以前から夫が向ける不満の目に気付くことは無かった。
夫の帰宅時の「お帰りなさい」がなくなったのは、沙耶香が生まれた
直後だった。

夫は自分に向けられる愛情を求めて飲みに行く回数が増え、帰宅が遅く
なる日々が続いた。
やがて、帰らないこともあるように。


母親は、沙耶香に手が掛からなくなってようやく、夫の愛情が自分に
向けられていないことに気付く。
夫婦の間には埋めようもない大きな亀裂が走っていた。


母親は職を探し始めた。
沙耶香が4つになり保育園に預けられるようになった頃から、母親は
仕事に就いた。
それから半年後、母親は夫に離婚に応じるよう求めた。
夫はすんなりそれに応じ、離婚はあっさり片付いた。
養育費も月々振り込まれることに。


母親は子供達のためにという思い一つで、献身的に働いた。
全てが子供に向けられた。
しかし、愛情表現は苦手だった。
ついつい指示口調になった。眉間にしわが寄ることが多かった。
もの心付いていた瑞希にはうっとおしく思えることが度々だった。
やがて反抗期に突入。


家計が苦しいのは分かっている。
だから、欲しい服も我慢している。
ケータイだけは買ってもらった。友達とつながってなきゃいけないから。


お母さんを支えてあげたい。
でも、その前にあたしに愛をちょうだい!
あたしが何か言いたいことに気付いて欲しい。