ショートストーリー 「夜空に赤々な星」本文(8)

=====本文(8)=====
錦ちゃんで起こる2つの騒動を通じて、人と人とのつながり、
自分もつながる勇気、つながれるという自信を掴む。

おいといておじさんと瑞希は西公園の自動販売機前で接触遭遇する。
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懐にあるたった1枚の千円札で「いろはす」を買った。
飲みきった後にボトルをくしゃくしゃに小さくする時、心に溜まった「うさ」と
いうやつが、少しだけ発散する感じが気に入っている。
ごとごとという音の後、ボトルが取り出し口に斜めに落ちて来た。
右手で斜めに引っ掛かっているボトルの底の部分を軽く押して、完全に落ち
切らせてから拾い上げようとしたその時、ケータイが鳴った。
麗子だった。たった一人の遊び友達。
「何しちょっと?」
「え、うん!?」
岩田屋のバーゲン、行かん?」
時間潰しに丁度いい。
「うん、行く行く」
「良かった。ひましとったんよ。じゃあ、3時に警固公園で良かぁ?」
「良かよ」
話しながらいろはすのキャップを回し、自販機を離れた。


おいといておじさんは、缶集めに西公園にやって来た。
缶を集める日は必ずこの西公園に立ち寄る。
ホームレス仲間内で自慢の頑丈な自転車を、おいといておじさんの強靭な
足腰がぐいぐいと急坂を引っ張り、一気に展望所まで登り切る。
ここに来るホームレスは他に居ない。


瑞希は麗子との電話が終わりケータイを畳んだ。
その時、思わず叫んだ。
「ああぁ、しまった〜。おつり、忘れた〜」
振り向くと自販機まで50m程度離れていた。
自販機の前に空き缶を満載した頑丈そうな自転車が見えた。
「ああぁ、やばっ。さっきはあの自転車無かったよ〜」
駆け出す瑞希
養生中で立ち入り禁止の札の立つ芝生の上を構わず走る。
もうあと20m。
その時、自販機の前に突然男が立ち上がった。
左手にしっかりと「いろはす」を握っていて、右手は小銭を持つ時のように
手の平を上にしてぎゅっと拳になっている。

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