ショートストーリー 「夜空に赤々な星」 本文(14)

瑞希の取り分は5千円を少し超えた。
ホームレスおじさんと半々ということにして、2千5百円を渡した。
おいといておじさんは顔をくしゃくしゃにして言った。
「あなた様は、やっぱり勝ちましたですね。はいぃ。(笑)」
「もしぃ、良ければですけどぉ、夕飯おごらせてくださいですぅ。
面白い屋台を紹介しますです。はいぃ。」
「ほんとにぃ? でもぉ、時間が、、、、あっ、でもいいや。どこにあるの。」
「はいぃ、櫛田神社の向こうの冷泉公園ですぅ。」
「遠いの?」
「ほんの10分も歩きませんですぅ。はいぃ。」


二人はGion1・1を離れ、冷泉公園に向かった。
途中、おいといておじさんは、娘が瑞希という名前だということを知った。
そして、自分がおいといておじさんって呼ばれていることを伝えた。
「えぇっ、変なあだ名〜」
「はいぃ、あんまり好かんとですが、屋台の皆さんが親しげに呼んでくるっと
ですよ。だけん、これでよかち思っちょります。はいぃ。」


屋台の仲間達の話をしながら、櫛田神社の大銀杏を見上げた。
「こん銀杏は、なんでん、千年も生きちょっらしかです。」
見上げた大銀杏のその先の漆黒の夜空に妙に赤く輝く星が浮かんでいた。
二人同時に声を上げた。
「あっ、あの星ぃ、この間よりちょっと動いたみたい」
「あっ、赤いなぁ〜」
岩さんが死んだ日に見上げた空に見つけた赤い星。自分の目を赤く染めた星。
あれから何日経ったんやろ。
「岩さん、わし、もうすぐホームレスから足洗いますぅ。」
おいといておじさんのつぶやきを瑞希は聞き逃さなかった。

「へ〜え、そうなんだ。ホームレスをやめるんだ。」
「ホームレスじゃなくなるってことは、普通に戻るってことぉ?」
「はいぃ、なんとかアパートに住めそうなんですぅ。はいぃ。」
おいといておじさんは、少し照れたように答えた。