3回目の事件2(フィクション)

ETC搭載車で良かった。
ぴったり張り付いてくる「軽」くんのドライバーは窓から右腕を突き出し、口を大きく開けて激しく喚いている。助手席の男は窓から身を乗り出している。
一般ゲートで停車しようものなら二人ともすぐに車を降りてダッシュして来るに違いない。
僕は不愉快と恐怖を激しく感じた。
こんな奴らに捉まったらとんでもないことになる。車から引きずり出されて半死の目に遭うだろう。ドアをロックしたところで窓を割られて同じ目に遭う。
今はとにかく車を停めないことだ。でもカーチェイスで逃げ切る自信は無い。ただ奴等の車が軽であることに一縷の望みを感じていた。


この先の一般道との合流は丁字交差点だ。この信号が赤でないことを祈りながらETCゲートを走り抜けた。
ゲート前で急減速。一瞬の停止後、急発進してゲートを抜けた。
「軽」くんはこの動きに泡を食ったようで、30m程引き離すことが出来た。しかし、猛然とダッシュして来る。


丁字交差点の信号は赤だ。
「くそっ!」
一瞬の閃きで右折車線と左折車線を分ける白線の上、つまり道路中央に停車した。停止線から10m手前だ。僕はエアコンをオフにし、シフトをNレンジにしてアクセルを踏み続け、エンジンの回転を上げたままにしてその時を待った。
迫る「軽」くんのアクションの選択肢は4つ有る。前に出て止まるか、両サイドのいずれかに止まるか、真後ろに止まるかだ。
目の前の信号は赤だ。「軽」くんは真後ろに止まるはずだと踏んだ。案の定、「軽」くんはタイヤから白煙を出しながら追突する勢いで真後ろに急停止した。
と同時にフィットシャトルハイブリッドのシフトをDレンジに叩き込み急発進させた。同時にステアリングを右に大きく切った。Uターンして高速に戻る作戦だ。
ちらっと「軽」くんを見た。二人の顔が怒りに歪んでいる。
その時、「軽」くんの向こうにあの老婆が見えた。そう、あの曲がった背中だ。
「うっ、」


構わず加速し、再び高速に乗るETCゲートに急いだ。
バックミラーを見た。
「軽」くんはUターンを終えて猛然と加速して来る。
と、その時、運転席の男の頭が前に突っ伏すのが見えた。助手席の男はそれに気付いていない。
僕は瞬間的にETCゲートに向かうのをやめ、再びUターンした。「軽」くんはあのまま直進するだろう。そして何かに激突するに違いない。


丁字交差点の信号はタイミング良く青に変わった。僕はそのまま左折した。曲がりきる直前に「軽」くんがゲートとゲートの間の構造物に激突するのが見えた。
少し走って道路左端に停車した。
激しく血液を送り続けた心臓と、酸素を供給してくれた肺と横隔膜が喘いでいた。手足が震えている。
「奴等はどうなっただろう? 案ずる事は無い。奴等の自業自得だ。」そう思った時、心に「快」が湧いて来た。
ふぅ〜っと大きく息を吐いた。
「やったぞ。ピンチを切り抜けたぞ。」
安堵感に満たされた。


しばらくして、両手をパチンと大きく叩いた。
「さぁ、仕事だ!」