11月15日 深耶馬渓ハイキング 次なる試練

次なる試練。
この時点で錦谷温泉華じ花に着くのは暗くなってからになると分かっていた。
GPSiPad miniに入れた地図で現在地と最短ルートを確認すると、少し前に通り過ぎた所に山を登る道があることになっている。
記憶をたぐるもそんな道は無かった。あったのは一枚岩の急傾斜の沢だけ。

今進んでいるルートも地図上では間もなく行き止まりになる。しかもさっきの猪の群れが進んだ方向でもある。
だからかなり危険だ。
沢を登り切れば林業道に合流できる。それを進めば華じ花のすぐ近くまで道がある。最後は暗闇の道無き斜面を下りることになりそうだが、、、
来た道を戻り車道を遠回りするという選択もあるが、それは余りにも時間がかかり過ぎる。
華じ花には7時までには着きたい。さもなければ管理人が遭難したのではないかと考えるに違いない。スマホ電波は全く無く他の連絡手段も無い。

危険だが沢を登るしか無い。そう決めた。
沢は一枚岩が水流で削れてUの字になっている。水流は少なく岩の表面を這うように流れている。
どう見ても危険だ。必ず滑る。上の方で傾斜が緩やかになるまでは沢を歩くのは自殺行為だ。
両側の崖を登るしかない。
生きている木が多い右側の崖を登った。滑落したら落ちる先は岩の上。ただではすまない。
これまでの山登りで、生きていると思う木の枝が簡単に折れることを何度も経験して来た。
滑り止めの手袋をして慎重に手掛かりを選んで登った。
背中のバックパックが重い。何度かバランスを失いそうになった。急斜面に足がずずずっと滑る。
進みが遅い。
沢の傾斜が緩くなった所で沢を進むことにした。その方が速いから。四つん這いで進んだ。傾斜が更に緩い所では立ち上がり、両のストックに体重を分散して滑るリスクに対応した。
尾根が近くなった所で折り重なる倒木に前進を阻まれた。やむなく右側の崖を登り、ついに尾根の頂きに立った。無事に登り切った喜びを感じた。

その時点で既に日没。空はまだ明るいがもう30分もしたら暗くなる。
水を飲み現在地を確認すると、すぐ近くに道があるはずだと分かった。。
藪を掻き分けると道があった。段差の低い場所を選んで道に降り立った。
さ、喜んでばかりは居られない。GPSは道が無くなる地点まで40分と示している。
そこに着く頃はもう真っ暗だろう。
途中走りを入れながら急いだ。
そして道が無くなり杉林の崖際に着いた。もう真っ暗。眼鏡に取り付けるライトと小型の懐中電灯を取り出す。現在地を確認。崖を下りると川がありそれを渡ると車道に出るようだ。。
西の空に満月前の月が輝いていた。
覚悟を決めて下り始めた。手掛かりは杉と低木。ライトを口に咥えて両の手で木々を掴みながら下りた。
川のせせらぎが少しずつ大きくなった。
川に到着。一枚岩を這うように流れる水流に映る月が美しい。
月明かりに感謝した。おかげで遠くまで見渡せる。
向こうに渡る地点を探す。水の深さが5cm以上になるとシューズに水が入ってしまう。
深い流れの幅ができるだけ小さい場所を選んで渡った。
シューズに水が入った。

藪を進むとすぐに堤防に当たった。登れない。
下流に少し移動すると、堤防に梯子が掛かっていた。やった。
これを上ると50mほど先に明かりのこぼれる民家があった。
安堵した。
しかし、右に行くのか左に行くのか分からない。時間を無駄に使うのは嫌だ。
もうすぐ7時になる。
道端に座って地図とにらめっこ。
すると気付いた。あの民家の向こうに道がある。そこに出てしまえばもう目と鼻の先だ。
そう確信して歩を進め、ついに華じ花まで200mという看板を見つけた。
嬉しかった。

オーナーが開口一番心配してましたよと言った。
今日の宿泊客は自分だけとのこと。
「ゆっくり温泉に入ってくるといい。上がる時間に合わせて夕飯を用意しておきますよ。」

炭酸温泉にゆっくり浸かり疲れを癒した。細かい泡がびっしりと身体中に付く。
至福のひと時。

夕飯は地鶏焼き丼を頼んでおいた。
食堂に行くと美味そうなそれが並んでいた。
生ビールを一杯。
オーナーの相良さんと楽しく会話。
明日は朝早く出るのでおにぎりを作って欲しいとのお願いを快く引き受けてくれた。
ログハウスに戻り缶ビールを飲む。
睡魔が素早く忍び込んで、瞬く間もなく眠りに落ちた。